前回は、患者さんとの距離感を意識するために、パーソナルスペースを意識した挨拶について説明しました。
信頼性の高い結果を得るために
今回は、この距離感を意識した作業について考えてみます。
眼科での検査を適切に行うためには、
どうしても相手のパーソナルスペースに入らなければなりません。
試験枠のレンズを入れ替えるのも腕を思い切り伸ばして作業すれば、
パーソナルスペースを侵害しないで操作できますが、
とても不自然な体勢になりますし、効率も悪くなりますね。
ですから、前回説明した挨拶やアイコンタクトで
パーソナルスペースへの侵入について了解して貰う事が大切なのです。
パーソナルスペースへ侵入することを理解、承認して貰えていれば、
患者さんに向けて何かの動作をする時にスムーズに受け入れて貰えるようになるからです。
ORTの皆さんの中には、
「検査員が患者さんのために行う行為なのだから、受け入れるのが当たり前だろう」
「そんな面倒なことをしなくても、結果的には変わりないでしょ」
とお考えになる方もいるかもしれません。
大人の患者さんであれば、患者さんがそのように考えてくれることに期待しても良いかも知れないのですが、
全ての患者さんにこれを期待するのは無理ですね。
幼児や認知症の進んだ高齢者では、このような検査員への理解・協力を得ることは難しく、
いちど機嫌を損ねれば強い拒絶反応に遭遇した経験はどなたでもお持ちかと思います。
検査をスムーズに進め、信頼性の高い結果を得るために、
パーソナルスペースを意識していただくことの重要性についてご理解いただけたでしょうか?
承認後も油断禁物
では、パーソナルスペースへの承認を受けた後には
どの様なことに気をつけて作業するべきなのか考えてみましょう。
一度承認を受けたあとは、
大人の患者さんであればあまり神経質に対応する必要はないかもしれません。
しかし、幼児の場合を想像してみてください。
幼児の場合には油断は禁物です。
幼児はパーソナルスペースへの侵入を許したからといって、
ORTの行動を全面的に信頼したわけではありません。
何か危害を加えられないか、痛い事をされないか、と常に緊張を続けています。
ですから、次に行われる検査行為をいちいち説明してあげる必要があります。
「椅子が高くなるよー」
「台が下がるよー」
といった具合です。
これは幼児だけでなく、認知症の高齢者や、緊張気味で神経質な大人の患者にも応用できるスキルです。
作業をする際の検査員の立ち位置や声を掛ける配慮も大切です。
可能であれば、以下の点に注意して作業をするように心がけると良いでしょう。
作業の注意ポイント
① できるだけ相手の視野の範囲内に入るようにして作業
他人に後ろに立たれると不安が増すからです。患者の横に座る場合でも少し前に座るとか、斜め前に位置するようにして、検査員の位置が把握し易いように心がけましょう。
自分と作業者の位置関係を常に把握してもらうことは患者の安心感に繋がります。
②物を顔に近づける時には視線を避ける
特に目に物が近づいてくる時に反射的に目を瞑ってしまうことでも分かりますが、目に向かって来るものは患者にとっては危険に感じるものなのです。
検眼レンズを入れ替えるなど、物を目に近づけるような時には、その物体がどのようなものか確認してもらいましょう。
そして患者の視界の外側からゆっくりと目に近づけるようにして、患者の緊張を最小限にする努力をしましょう。
患者が慣れてきたと確認できたら、少しずつ作業のスピードを早めてゆきます。
このパーソナルスペースに入ってからの最初の段階で急ぎすぎると、乱暴な操作で怖いという印象を与えてしまうので、注意が必要なのです。
③できるだけ声をかけながら作業
患者自身がどのような状況に置かれているのか、どのような作業の途中なのか知ることで、患者の緊張感を弱めることも可能です。
「次にレンズを変えて見え方がどう変わる調べますね。はい、レンズを入れ替えますよ」
「機械の高さを調節しますね。中に風船のようなものが見えてますか?じっと見ているとはっきりしてきますからね」
といった様に、作業の内容や手順を話しながら操作すると患者の安心感が得られやすいですね。
無言のままで作業するORTは居ないと思いますが、声をかけてあげながらの作業は、パーソナルスペースに入ったあとも重要です。
むしろ、パーソナルスペースに入りながらどれだけ声をかけてあげられるか意識しながら作業する工夫をしてみましょう。
近藤義之 PROFILE
1955年東京都生まれ。日本眼科学会認定眼科専門医/一般社団法人みるみるプロジェクト特別顧問/医療法人社団インフィニティメディカル前理事長。杏林大学卒業。虎の門病院眼科勤務を経て1993年八王子市で眼科診療所を開設。組織を拡大し医療法人インフィニティメディカルの下に4か所の診療所を経営していたが2020年に医療法人経営を後進に委譲して退職。日帰り白内障手術2万件以上の豊富な経験を持ちリタイア後もフリーランスの眼外科医を継続。毎月100例以上の白内障手術を執刀し続けている。趣味は眼科手術の研究と65歳から始めた乗馬。
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