こんにちは。視能訓練士の平良です。
小児眼科の現場で、多くのお子さんたちの弱視斜視の検査訓練を担当させていただいています。
私が勤務する大里眼科では、弱視訓練メニューのひとつとして、長年大切に守り続けているものがあります。
それは「ビーズ通し」です。

非常にシンプルな、一見すると「遊び」にも見えるこの訓練。
実を言うと、同業の視能訓練士から

いまどき ビーズ通しなんて アナログで古い手法だね
と驚かれることもあります。
タブレット端末や最新デジタルデバイスを使った訓練ソフトが次々と開発される現代、糸とビーズを使う手法は確かに時代遅れに映るのかもしれません。
しかし私はこの20年間、ビーズ通しに励む子どもたちの指先と、その真剣な様子をずっと観察し続けてきました。
その経験から断言できるのは



この訓練には デジタルにはない 人としての基礎を育む力がある
ということです。


「見る」と「動かす」高度な連携
もちろん、この訓練は誰にでも一律に行うわけではありません。
お子さんの年齢、現在の視力や眼の状態をしっかり把握した上で、必ず眼科医の判断と指示のもとで実施されます。
ビーズ通しの最大の目的は、
- 近くのものを精密に、立体的に捉える力を養う。
- 目で捉えた情報に対して、自分の指先を正確にコントロールする力
を鍛えることにあります。
小さなビーズの穴を見つめ、そこに細い糸を通す。
言葉にすれば簡単ですが、これは脳にとって非常に高度な処理を要求する作業です。
対象との距離感を正しく測り、空間の中での位置関係を把握し、それに基づいて自分の筋肉を動かす。
この「目と手の協調運動」、子どもたちの成長において欠かせないピースなのです。
保育士に学ぶ、子どもたちの「変化」
私は保育士さんや幼稚園教諭の方々と交流する機会を多くいただいています。
そこでよく耳にするのが、少し気がかりな「子どもたちの変化」についてのお話。



最近の子は 昔に比べて筆圧が弱くなっている気がする



積み木を高く積んだり 手先の細かな操作が 苦手な子が増えた



遠足のときなど、周囲の状況への注意力が弱いと感じることがある


こうした声を聞くたびに ハッとさせられます。
デジタル画面をスワイプする動作は、非常に効率的で便利です。
しかしそこには
「力加減を調整する」
「立体的な構造を指先で探る」
といった、アナログな体験が不足しているのかもしれません。
指先を使い、微細な操作を繰り返すビーズ通しは、実は読み書きのうち、特に「書く力」に直結する訓練であると私は確信しています。
しっかりとした筆圧で文字を書く、枠の中にバランスよく文字を収める。
これらはすべて、ビーズ通しで培われる「コントロール力」の延長線上にあるのです。
AI時代。土台を固める
私たちは今、AI(人工知能)が社会を大きく変える過渡期に生きています。
子どもたちが大人になる頃には、いま想像もできないデジタル技術が当たり前になっているでしょう。
でも。
時代がどれほど進歩しても、教育や社会生活の第一歩は
「自分の名前を鉛筆やペンで書くこと」
から始まります。まだかなり先までこれは続くはず。
自分の意思を文字に乗せ、紙に記す。
学びのすべての基本です。
デジタルデバイスを使いこなすスキルももちろん大切。
しかしその前提として、自らの目と手を使って世界を把握する「基礎的な力」が備えておいて欲しいのです。


20年変わらない、あの一瞬の輝き
大里眼科でビーズ通しに取り組む子どもたちは、最初から上手くできるわけではありません。何度も失敗し、糸が逸れ、もどかしい思いをすることもあります。
けれど、じっと見つめた指先に集中して、ついに一粒のビーズが糸を通った瞬間。子どもたちは、パッとお顔を輝かせます。その時の誇らしげな表情、達成感に満ちた笑顔。訓練が成功している何よりの証拠です。
「古い」と言われるアナログな手法の中には、人間が成長するために必要な「本質」が隠れています。私は視能訓練士として、最新の知見を取り入れつつも、この20年で確信した「本当に大切なこと」を、これからも守り続けていきたいと思っています。
一粒のビーズから始まる、子どもたちの心豊かな成長。 これからも、一人ひとりの歩みに寄り添って一緒に頑張りたいと思います。
平良美津子PROFILE


視能訓練士/みるみるプロジェクト参与
北九州市出身/大分視能訓練士専門学校卒業。北九州市立若松病院などで勤務後、医療法人大里眼科クリニックにて辰巳貞子先生のもと小児眼科を学ぶ。福岡市立こども病院眼科を経て(一社)みるみるプロジェクトを有志らと共に設立。複数の眼科クリニックで勤務しつつ後進の視能訓練士育成/異業種交流(弱視就学支援・eスポーツ研究等)/弱視早期発見活動に取り組む。
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