“視能訓練士”という眼科の専門技術職をご存じですか?国家資格であり、特に小児の視能矯正や視機能の検査で欠かせないプロフェッショナルです。
【視能訓練士のみるみるDAYS】では、この視能訓練士の人々にスポットをあて、日常のお仕事の様子や想いをご紹介します。眼科受診のお子様にもとても頼れる存在ですよ。
Vol.03は、関西圏眼科勤務で活躍中の視能訓練士Hさんの寄稿エッセイです。
「医療に携わる仕事をしてみたい」
そう思うようになったのは高校1年生の夏に某長時間チャリティーの募金ボランティアをやり遂げたのがきっかけだったのではないかと記憶しています。それ以前から病院や福祉施設を回るボランティア活動に参加させてもらい、身体障害を持たれている方と触れ合う機会が多く、寄り添われている医療従事者の方々が輝いて見えていました。
数ある医療職の進路を調べる中で「視能訓練士」という職業がありました。小学生から近視の眼鏡を合わせるために度々眼科を受診していた私自身の経験から、眼科で働く視能訓練士に強い興味を抱きました。視能訓練士のこと・目指したいことを母に話したところ、母の片眼は私が中学に上がる前からほぼ見えないと打ち明けられたことが衝撃的でした。それ以前から時折「見えにくい」という事を話していた母でしたが、私の眼から見てあまりにも自然に生活していたことで「見える」とはどういうことなのか、母はどのような状態になっているのか視能訓練士になれば何かわかるようになるのかと高校生ながら考えつつ受験に臨みました。
その後養成校で、視能訓練士の仕事が訓練やそれに必要な検査だけでなく、眼疾患の診断に重要なあらゆる検査、その基盤となる視機能の成立や発達の過程など眼に関するありとあらゆることを知った上で行うということを学びました。
国家試験を経て視能訓練士になり地元の病院に就職した際に、母の検眼をしました。以前見えなくなった時に掛かったのが就職した病院だったので当時の記録も残っており、発症当時と違って原因こそわからないものの現在の設備で治療が可能であると医師からお話を貰い手術をすることになりました。手術翌日からの検眼も私が担当し、その回復の様子を共有できたこと、状態が落ち着いたあと眼鏡を合わせ、眼鏡をプレゼントした時に子として視能訓練士として大きな達成感を得ることができました。
それ以降はより一層「人の見え方に携わっている」という意識を強く持ち小児の成長から高齢者の生活に寄り添えるような検査・訓練・指導・声掛けをするようになりました。
仕事の中で「見えない・見えにくい」という主訴で眼科を受診される患者さんは大変多く、我々視能訓練士は医師からの包括指示により診察前に視力を測らせてもらう事が多いです。検査時に主訴通り見えない結果が出た場合、その後の診断がどうなったのか、改善の手助けになるようなことは何かないかと私は常々考えるようにしています。
中でも眼鏡に関与することが多く、ご高齢の方であれば白内障など視力回復が可能な疾患であれば治療を進めた先の眼鏡度数調整を、回復困難な疾患であればルーペや拡大読書器といった生活を支える支援指導を、学校健診で視力低下を指摘されたこどもさんであれば黒板や目を細めて見てしまっている事を改善させる眼鏡を、3歳児健診で強い屈折異常や斜視で弱視疑いになったこどもさんであれば弱視治療眼鏡を、と患者さんのQOVL(quality of visual life)に関わる自分にできることを模索します。その際患者さん・そのご家族とのお話の中で多くの望みを聞きます。何が見たいのかを聞くと、道路標識やゴルフのボール・黒板といった遠くのものから、TVや対面で会話する相手の顔といった中距離、スマホや教科書の文字・精密作業をする近距離といった距離間に関する希望、屋外や室内でも眩しいと感じてしまうのでどうにかしたいという明るさに関するものなど希望されることは人それぞれ違います。患者さんのニーズを聞き取り、医師の診断と検査結果をもとに可能な限りのサポートを行った上で医師の書く眼鏡処方箋にコメントを付けさせていただき、眼鏡店へ橋渡しすることとなります。次に来られた時には作られた眼鏡を見せてもらいながら悩んでおられたことに改善があったのかを聞きます。改善がみられた時、よくなったと言われた時にはともに喜び、やりがいを感じます。
すべてを持って最大限の対応をする
眼鏡を例に挙げましたが、私は仕事をする中で視能訓練士1年目から考えていることがあります。それは患者さん一人一人、行う検査一つ一つにおいて、その時持てるすべてを持って最大限の対応をすることです。前回より今回、今回より次回へと自分の能力の引き出しを増やし前回足りなかった部分があるのであれば次までに補っておくことを徹底するようにしています。いつまで経っても未熟な私ですが、患者さんに育ててもらいこれからも精進しなければならないと思っています。
視能訓練士H
(編集者)視能訓練士Hさん、素敵な寄稿ありがとうございました。大切なお母様への想いから始まる「見える」って何だろう?への探求、親孝行のお話し、とても感じ入りました。
「もし、お客様が自分の家族だったら」と考えているか
元ザ・リッツカールトン大阪営業統括支配人林田正光氏
という言葉を思い出しました。Hさんはまさにこの気持ちを実践されているご様子に胸が熱くなりました。バルーンアートの工夫、とても素敵ですね!
みるみるプロジェクトでは、眼科で活躍されている視能訓練士さんからの寄稿を随時募集しております。視能訓練士になったきっかけ、日々のお仕事で思う事、患児のお子様や保護者様へ伝えたい事、なんでも結構です。
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